不妊治療
丸山記念総合病院
妊娠の成立 - 妊娠に関わるホルモンと体の動き
妊娠するための排卵と月経のサイクルには、さまざまなホルモンが分泌され血流にのりそれぞれの器官に働きかけることによって起こります。
それぞれの動きについて、少し説明をいたします。
①月経の時期になると脳の視床下部からゴナドトロピン放出
ホルモン〈GnRH〉が分泌され脳下垂体に作用します。
②脳下垂体はその刺激を受けて、卵胞刺激ホルモン〈FSH〉
を分泌し卵巣に卵胞を成熟させるように促します。
③FSHに刺激された卵胞は成熟に伴って、卵胞ホルモン〈エストロゲン〉を分泌します。
④エストロゲンにより、子宮内膜が厚くなり、また頸管粘液(おりもの)が分泌されるようになります。排卵直前のおりものは粘度が高くなる傾向にあります。
⑤卵胞が大きくなりエストロゲンの分泌が十分になると視床下部がそれを捉え、脳下垂体に黄体化ホルモン〈LH〉を大量に分泌させ(LHサージ)、卵巣に排卵を促します。
⑥LHサージを受けて排卵が起こります。
→左右の卵巣でいくつもの卵胞が育つ中で一番成熟の早い卵胞〈主席卵胞〉から1つ(稀に2つ)排卵します。
①卵巣内でホルモンの刺激により卵胞が発育し始める。
②精子が膣内に射精される。
③子宮頚管を頸管粘液に沿って進入する。
④精子は子宮内を遡上し卵管膨大部に達する。
⑤発育する卵胞の中で成熟の一番早い主席卵胞という卵胞が排卵する。
⑥卵子が卵管采により捕捉される。
⑦排卵後の卵胞の細胞が黄体となり、子宮内膜を厚くするように働きかける。
⑧卵管膨大部で排卵された卵子と到着した精子が出会い受精する。
⑨受精卵(胚)は、2細胞・4細胞・8細胞・桑実胚と細胞分割を繰り返しながら卵管内を約4日間かけて
移動する。
⑩子宮にたどり着いた受精卵は5~7日かけて胚盤胞という状態となり厚くなった子宮内膜に着床し妊娠
が成立する。
不妊症の原因はさまざまで女性因子である、排卵因子(排卵障害)、卵管因子(閉塞・狭窄・癒着・水腫)、子宮因子(子宮筋腫・子宮内膜ポリープ・先天奇形・子宮内膜症・)、免疫因子(抗精子抗体)と男性因子(性機能障害・精子異常など)があります。
このうち
1:排卵因子
2:卵管因子
3:男性因子
が頻度が高く不妊症の3大原因と言われています。
排卵させるまでに過程でなんらかの異常がおき、卵が育たない、また育ってもうまく排卵できない状態のことを言います。
排卵障害は基礎体温を毎日計ることで見極めることができ、基礎体温が2相でない場合や生理不順が続く場合も排卵障害を疑ったほうが言いといえます。
排卵障害の原因は
・中枢性(自律神経に関する視床下部性とホルモンの中枢である下垂体性)
・卵巣機能低下
・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
・黄体機能不全
・高プロラクチン血症
などがあります。また痩せすぎや太りすぎも排卵障害の原因になると言われています。
卵管は卵巣から放出された卵子を取り込み、卵子を子宮へと運ぶ細い管のことです。子宮の左右両側にあり、細いところでは直径が1mm未満になるところもあります。この卵管が狭くなっていたり、塞がってしまっていたり、癒着していたりすることにより、卵子が待つ位置まで精子がたどり着くことができません。なんとか精子がたどり着くことができて受精できたとしても、その受精卵が子宮にたどり着くのは容易なことではありません。このような卵管のトラブルを卵管障害と呼んでいます。
卵管障害の原因
・性感染症による炎症
クラミジア感染症や淋病などにより炎症を起こし、子宮頚管炎・子宮内膜炎・卵管炎などを発症しその炎症により卵管が癒着をひきおこしてしまいます。
治療は抗生物質の服用です。夫婦間での再感染を防ぐために二人で受診・治療を行うことをおすすめします。
・子宮内膜症
本来子宮内腔にしかないはずの子宮内膜や子宮内膜様の組織が何らかの原因で子宮内腔以外の場所(卵巣・卵管・膣など)にできることを子宮内膜症と言います。
月経期になると子宮内膜は剥がれ落ち体外に排出されますが、子宮内腔以外の場所で発生すると排出される場所がないため出血した血液はその場所に溜まってしまいます。毎月その部分で出血がおこることで炎症をおこしたり、癒着を起こしたりすることでさまざまな症状を引き起こすことになります。
例えば卵管にできた場合卵管癒着を起こし、子宮の筋層にできた場合子宮腺筋症になり、卵巣にできた場合卵巣が大きく腫れチョコレート嚢胞と呼ばれ、それぞれが不妊症の原因となります。
男性不妊は30%近くあると言われており女性因子とほぼ同じくらい多いとされています。
子供ができずに女性が婦人科を受診して検査を重ね、男性にも精液検査をしてみたら精子が極端に少ないということもあります。
男性不妊の原因は、精巣の損傷もしくは機能障害・精子の産出あるいは射精に関係するトラブル・ストレス・アルコール・喫煙・肥満・病気や薬の影響・性感染症による炎症・先天的なものなどさまざまです。
男性因子の治療は泌尿器科と連携して行っています。
男性不妊の種類
・造精機能障害
精巣で精子をつくる機能に問題があるため、精子をうまく作り出すことができない状態のことです。
造精機能障害の種類には、
・無精子症(精液内に1匹も精子がいない)
・乏精子症(精液中の精子の濃度が低い)
・精子無力症(精子の運動率が低い)
があり、不妊症に対してそれぞれ対処法があります。検査結果に応じて、また話し合って治療の方針を決めていきます。
造精機能障害の原因はわからないものが多く、次いで精索静脈瘤とよばれる精巣(睾丸)の静脈にお腹から血液が逆流して、瘤(こぶ)状にふくれるものがあります。
精巣の静脈には左右で違いがあり、右側より左側にみられることが多いですが左右両方にあることもあります。精索静脈瘤があると、静脈のうっ血により精巣(睾丸)の温度を上昇させ、精子を作る働きに悪影響をおよぼすと考えられています。
・この他に
・精液が膀胱に射精されてしまう逆行性射精。
・精子を運ぶ管内に異常が見られ正常な射精ができなくなる精路通過障害
(生れつき精管に異所が見られる先天性のものと、けがや病気が原因でおこる後天性のものがあります)
・勃起不全などの性機能障害。
などがあります。